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zoom RSS FRBの資金循環正常化政策

<<   作成日時 : 2009/08/14 07:53   >>

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前回の続きです。

さて、現在アメリカのFRBは、資産担保証券の大量購入を続けています。資産担保証券の残高は、5,428億ドルもあります。年末までに1兆2,500億ドルに達するまで購入する予定です。現在の総資産は、19,917億ドルから今の水準ですら総資産の27%です。1年前にはゼロでした。1年前からの資産の増加の50%を占めています。この政策は、価値の保蔵手段と交換手段、三つの循環という観点から眺めると実に興味深いものです。
(注)資産担保証券と訳したのは、Morgage−backed securitiesです。具体的にはファニーメイ、フレディーマック、ジニーメイによって保証されている資産担保証券です。その保証にどれほどの意味があるのか分かりませんが。

補足しておくと新築住宅の購入は、今期生産されるものなので、第一の循環に属することは間違いがありません。そして、時間がたてばその住宅は中古住宅になります。これは過去に生産された実物資産なので、これを売買することは第2の循環に属します。第2の循環にマネーが流れ込み、中古住宅の価格が維持されると新築住宅への需要が増えます。

不動産ローンを証券化した不動産担保証券をFRBが買うというのは、第3の循環、金融資産とマネー交換の循環です。住宅ローンを証券化した債券をFRBが買うと、住宅ローンの貸し手にマネーが流れます。そして住宅の購入者にマネーが流れます。中古住宅の買い手に流れれば、中古住宅市場の価格が保たれ、新築住宅の買い手に流れれば、新築住宅が売れます。ここで注意が必要なのは、借り手が住宅を買うという行動をとるときに限ってマネーが流れていくと言うことです。

ノンリコースローンを借りて住宅を買ったけれども不況のせいでローンを払えなくなった人は中古住宅を貸し手に引き渡して、ローンを清算することができます。担保を引き渡せばそれ以上のローンを返す義務がないからです。その人は借金ゼロで生活を始めることができます。消費には+でしょう。
中古住宅の価格が維持されていると、そして担保となっていた住宅を受け取った貸し手はそれを比較的高い値で売ることができます。資産担保証券の価値は比較的維持され、金融機関のバランスシートが痛むのを押さえられます。また、買い入れによって資産担保証券の値下がりリスクは金融機関からFRBに移ります。金融機関の将来のバランスシートの悪化の恐れは減ります。一方、新築住宅の需要が減るのも抑制されます。

FRBの政策は、第3の循環、金融資産の循環にマネーを流し込むことにより、第2の循環、実物資産の循環にマネーが流れて行き、さらに第1の循環、生産、雇用、所得の循環にもマネーが流れていくことを狙っているのです。また、金融機関のバランスシートの悪化をとどめ、金融機関がマネーによって価値を保蔵する必要性を薄めてもいます。


「少しきな臭い原油市場」の背景には」で「普通の金融政策の手段、オペによるマネーの供給や金利の操作だけでは、どの循環にマネーが流れていくかをコントロールすることはできません。マネーを価値の保蔵の手段として用いるか、交換の手段として用いるかもコントロールできません。」と書きましたがFRBはどのような金融資産を買うか、その選択によってマネーの行き先をコントロールしようとしているように見えます。さらにマネーを保蔵手段から交換の媒介手段に引き戻そうとしているかもしれません。

資産、そしてその裏側にある負債の量ではなく、どのような金融資産を買って保有するかが重要なのであれば、この政策を量的緩和政策と呼ぶのは適切ではありません。信用緩和という表現もあるようですが、資金循環正常化政策と呼べばいいのだと思います。

それが狙いだとすると、前回示した通貨当局のバランスシートで、資産が増えても、預金機関の準備がほぼ同じだけ増えているという現象は別に問題ではないのかもしれません。むしろ、企業や家計が銀行などに預金し、預金を集めた銀行などから、FRBが金を借り(実際、危機後FRBは準備預金に0.25%の利子を付けています。)それを資産担保証券で運用していると考えればいいのです。企業や家計から住宅市場への資金供給のパイプを作っているのですから。(このさやがどれぐらいあるのか興味あるところです。)

この政策が失敗するとしたら、それはアメリカの住宅が基本的に過剰である場合でしょう。経済力に比べて住宅の価値が大きすぎれば、価格下落か、住宅の物的ストックの縮小によってバランスを回復させなければなりません。思い切って住宅そのものをFRBが買い取り、取り壊すという手もありますが。FRBのバランスシートは傷みます。それにここまで行くと金融政策ではなく財政政策です。それなら、政府が国債を発行して買い取ればいいので、中央銀行は国債の円滑消化に協力するというのが本来の役割分担でしょう。日銀の白川総裁が、「伝統的な金融政策の有効性が制約を受ける中で中央銀行が『効果のある』政策措置を行おうとする場合、必然的に財政政策の領域に接近します。このため、民主主義社会において、そうした政策を誰が担うことが適切か、という問題に直面することになりました。」と中国人民銀行・国際決済銀行共催コンファランスで発言されましたhttp://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0908a.htmが、誠に本質をついたものだと思います。

ただ、FRBには時の利があります。一方で、アメリカの人口は増えていますから潜在的な住宅需要は増えていきます。他方、中古住宅は自然に古くなり、家屋としての寿命が絶えれば、ストックは減少します。時がすべてを癒してくれるかもしれません。

さて、Voice2009年9月号の浜田浩一先生の「日銀は産業界を苦しめている」を飯田泰之先生は高く評価されているようですが(http://d.hatena.ne.jp/Yasuyuki-Iida/20090809)、以上のような認識をもって読むと、強い違和感を持たざるを得ません。

 この論文の基本的な問題は、世界全体のマネーの循環、特に、生産される財・サービスとの交換の循環を拡大しようという問題意識がまったくなく、日本だけの回復の手段を論じていることです。先生には、世界の金融危機から始まった実体経済の収縮を食い止め、拡大するために日本がどのような政策をとるべきかを論じていただきたかったと思います。

 日本の回復のための手段に視野を限定された結果として、主張されているのはマネーの拡大、円安を通じた日本の輸出の拡大でしかありません。資産価格への効果は多少意識されているような記述もありますが、基本は円安・輸出拡大政策です。これは、近隣窮乏化政策以外の何者でもありません。欧米の金融システムの安定性に疑問が残っている今、欧米に対して通貨切り下げ競争を挑むのは、極めて冒険的な政策でしょう。万一、国際通貨システムの混乱を招いたらどういうことになるか、見当もつきません。

 今、必要なのは輸出市場を巡る国際競争ではなく、国際貿易、資本取引の決済の安全性の確保と世界全体での生産、所得、雇用の拡大につながるマネーの循環の回復のための国際協調です。

以下余談です。

「基軸通貨(国)の条件」で書いた基軸通貨(国)の条件のほとんどを、円(日本)は満たしています。非常事態として関東大地震がありますけれども。また、中心となるメガバンクの自己資本比率が、やや低いという問題はあります。中央銀行の職員のまじめさは、折り紙付きでしょう。

では、なぜ円が基軸通貨の一つ、あるいはマイナーな基軸通貨にならないのか、といえば、ドルで十分足りているし、ユーロもあるからといった歴史的理由もあります。しかし、本質的な問題なのは、基軸通貨国の責任を負うという気持ちが日本にないからではないか、そんな気がしています。

基軸通貨国になれば、多くの利点があります。しかし、同時に世界の金融に責任を負わなければなりません。自国の金融政策、金利も含めた金融政策を、世界経済の都合に合わせて決めていかなければならない時もあります。特に、世界の経済が混乱に陥りかけている時や陥ってしまったときです。自国だけの都合に合わせて、マネーサプライを膨張させ、金利を引き下げて、自国の輸出を増やし、国内の均衡を図るといった政策は、とれなくはありませんが、とるべきではありません。基軸通貨国がそのような政策をとれば、世界経済の混乱を引き起こすからです。

そのような責任は負いたくないし、そもそも、世界経済の運営に当たろう、せめて責任を分担しようという気持ちもない。そういう国は基軸通貨国にはなれませんし、なるべきでもありません。

現在の世界経済の問題は、世界経済の運営の責任を負おうとする国があるとしても、その国の能力にはいささか疑問があり、能力を持つ国には、責任を負う気持ちが全くないことではないかという気がしています。

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