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zoom RSS 日本の特殊な労使関係が名目賃金の持続的低下の原因なのか?

<<   作成日時 : 2015/06/24 11:08   >>

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1990年代末から最近まで、日本では持続的な名目賃金の下落が続いていました。その反面、失業率は高まったといえ、アメリカや欧州に比べれば低い水準で推移してきました。生産性の伸びはアメリカと欧州の中間といったところのようです。

さて、この持続的な名目賃金の下落などの原因を日本の労使関係の特異さに求める議論があります。まず、日本の労働組合が組合員の雇用確保を重視して、賃金の引き下げを受け入れ、非正規労働者の割合が高まるのを気にしなかった。この結果、賃金が上昇せず、採算の悪い事業が温存された。その結果、日本企業の付加価値総出力が低下し、GDPもあまり増えなかった。というものです。

まず、最後の主張について違和感があります。理論的な面からいうと、普通、需給状況に応じて価格がスムーズに変化するということは望ましい経済パフォーマンスをもたらすと考えられています。その系として賃金も弾力的に動くのが良いとされています。問題にされるのは賃金の下方硬直性であって、賃金が柔軟に動くことへの批判というのは、経済学者からはあまり聞きません。賃金が柔軟に動いた結果、本来あるべきGDPよりも現実のGDPが下がってしまったという議論には無理があるように思います。

それはそれとして、順序を追って議論していきましょう。

第一に、日本の労働組合が組合員の雇用確保を重視して、賃金の引き下げを受け入れた結果、日本の平均賃金が上昇しなかったといえるのでしょうか?

労働組合が組合員の雇用の確保を重視していたことは事実でしょう。私が労働組合員であれば、自分の雇用の補償を求めたでしょうし、組合役員であればその期待に応えようとしたでしょう。しかし、それに成功したか言えば、そうとは言えないでしょう。1997年の金融危機以来2005年ぐらいまでリストラの嵐が吹き荒れました。雇用の確保に成功した組合もあったでしょうが、職を失った組合員は大勢いました。職を確保した組合員の賃金が増えなかったのは事実ですが、これは平均賃金が下がった主因とは言えないでしょう。問題はリストラされた組合員がどうなったかです。

(追記)(注1)厚生労働省の労働組合基礎調査によると、民間労組と考えられる労働組合法適用労働組合(単一組合)の組合員数は1997年の977万人から2006年には798万人に減っています。

採用が抑制され、非正規労働者の割合が高まったのでしょうか?その面はあるとは思いますが、そもそも労働組合は新規採用、採用条件については口を出せません。彼らはまだ労働組合員ではないのですから。リストラを受け入れた労働組合は、その時は、新規採用に否定的であったかもしれませんが、その後は採用を抑制しようとしたという話を聞いたことはありません。むしろ、組合員を増やすためにも、長期的な企業の発展の観点からもある程度の採用を求めていたというのが実情ではないでしょうか?採用抑制は、企業の判断であって、労働組合とは直接かかわりがないように思えます。

また、そもそも日本の労働組合の組織率は高くはなく、多くの労働者は組合員ではありません。組合の行動が日本の平均賃金に及ぼす影響というのはもともと小さいのです。

(追記)(注2)注1と同じデータによると、官公労をあわせても1997年の推定組織率は22.6%、2006年は18.2%、2014年は17.5%でした。

どうも、日本の特殊な労使関係に、持続的な賃金の下落や生産性低下の原因を求めるというのは無理があると思われます。では、どういうメカニズムが働いたのでしょうか。私は次のように考えています。

1997年から2004年ぐらいまでの間に大規模なリストラ・若者の採用抑制が行われ、その後も採用の抑制が続きました。これは労働組合のある企業に限ったことではありません。日本の多くの企業で行われたことです。その結果、最近までリストラされた失業者、学校を出ても就職できなかった若者が大勢いたのです。失業給付が比較的短期間であったり、失業給付と生活保護の隙間を埋める制度があまりないという日本の仕組みの下では、これらの人々は生活するためには、低賃金でも雇われることを選択します。経済学用語でいえば、就業、非就業を決める留保賃金が低いのです。これらの人を低賃金で雇うことについて制約はありません。

(追記)(注3)総務省の労働力調査によると、15歳から64歳の男性の就業率は1997年には82.4%ありましたが、その後低下し2003年には79.8%まで低下しました。2007年には81.7%まで回復したものの再び低下し、2010年には80.0%になりました。その後上昇してきていますが、2014年でも81.5%で、1997年の水準には回復していません。

労働者を何人でも低賃金でも雇え、もう一方で金利が低いという環境は、付加価値でみて低生産性の産業、企業でも収益をあげられるということを意味しています。付加価値から賃金、利子を支払った残りが利潤なので、賃金、利子が少なくて済めば、付加価値が小さくても利潤は得られるのですから。

現実に、日本では低生産性、低賃金の新興企業、産業が多くみられるようになった訳で、何ら不思議ではありません。1990年代初めにはそれほど一般的ではなかった業種、大勢の非正規労働者を雇っている生産性の低い企業が多く存在しています。日本の平均賃金が低く、平均生産性が低く、付加価値が小さいという3点セットに何の不思議もありません。非正規労働者が増えたことも、それによって雇用が維持されたことも、別に特別な原因を考える必要もありません。

最後に、賃金上昇がみられなかったために不採算部門が生き残り、それ故に付加価値を生み出す力がなくなったともいえないでしょう。労働者を何人でも低賃金でも雇え、もう一方で金利が低いという環境は、付加価値でみて高生産性の産業、企業があれば、莫大な収益をあげられるということも意味しています。もし、そのような事業が数多くあれば、この時期に高生産性、低賃金、高収益企業が輩出していたはずです。そうであれば、雇用が拡大し、労働需給はタイト化し、平均賃金は上がっていたかもしれませんが。そうはならなかったということは、高い付加価値を生み出す力、機会が失われていたということを意味します。これが、低付加価値、低賃金の原因であってその逆ではありません。

(追記)なぜ、付加価値を生み出す機会が長く失われていたかというのは、重要な問題ですが、この原因を日本の特殊な労資関係に求めるのは無理だろうと思います。私は、なにか市場に構造的な問題があったというよりも、1997年から200年代前半の経済環境が企業、家計の期待を変え、協調の失敗に陥ったのだろうと思っています。その他にも構造改革を志向したマクロ経済運営の失敗(欠如):総需要管理の失敗あるいは軽視などの理由も考えられます。

さらに言えば、そのような企業が存在しなかった以上、低付加価値、低賃金、非正規労働者を多く雇用する企業、不採算部門にも存在意義はあったというべきでしょう。生産性が低くても、労働者が失業して、何も生産しない、つまり付加価値が生み出されないよりははるかにましです。採算が悪いということは生産性がマイナスだということを意味しません。

将来性の高い生産性を持ち、高賃金を負担できる企業が現れれば、低付加価値、低賃金、非正規労働者を多く雇用する企業、不採算部門からそこへ労働者は自然に移っていきます。元労務屋@保守親父さんが「JIRRA労働政策研究会議」で「要するに低生産性分野の賃金が低く高生産性分野の賃金が高ければ自然に労働力の移動は起こるだろうといういつもの話です。」と書かれている通りです。低賃金企業と労働者獲得競争をやって負けてしまう高生産性企業というものを、私は想像することができません。政策的に、排出を進める必要などはありません。やれば、さらに低付加価値、さらに低賃金、非正規労働者がさらに多い企業が繁栄することになりかねません。

政策の方向を誤らないようにしなければなりません。

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