パートタイム労働者の賃金
またしても、本田先生のブログ(http://d.hatena.ne.jp/yukihonda/20060123)でのコメントからスタートしたものです。
本田先生は「引用部分で私が注目したかったのは、仕事内容を問わずパートというだけで低賃金に一括されているという指摘です。それでも労働供給があるのでそういうことが成立しているのですが、やはり問題だと思います。」と述べられています。
この引用は大橋勇雄・中村二朗『労働市場の経済学』の154,155ページからのものです。
ここでもう一度、引用しておきます。()の数字は私が追加したものです。
(1)「正規社員の労働市場と比較して、パート市場の賃金は驚くほど平準化している。」
(2)「このことからパート市場はよく機能しているように見えるが、パートの仕事の内容が多様であることを考慮すると、そうではない。」
(3)「今やあらゆる業種や職種でパートは活用されており、仕事の難しさや必要とする緊張度、仕事のつらさなど実に様々である。」
(4)「にもかかわらず、パートの仕事として大括りにされ、賃金が低く抑えられているのが実状である。」
(5)「その意味で、まずパートの賃金を仕事に応じて決めるシステムが必要である。」
これらを、検討してみたいと考えています。
データは平成16年賃金構造基本統計調査です。
(1)について、学歴計、企業規模計、全産業で見ます。
女性の一般労働者の所定内給与の分布はこのようになっています。
http://wwwdbtk.mhlw.go.jp/toukei/kouhyo/data-rou4/data16/10301.xls
女性のパートタイム労働者の1時間あたり所定内給与の分布はこちらです。
http://wwwdbtk.mhlw.go.jp/toukei/kouhyo/data-rou4/data16/31501.xls
四分位分散係数=(第3四分位-第1四分位)÷(中位数×2)
です。これは散らばり方を示す指標で、大きいほど散らばりが大きいことを示します。
所定内労働時間の差を無視した一般労働者の所定内賃金と、パートタイム労働者の1時間あたり所定内給与の比較であり、不正確ですが、パートタイム労働者の賃金の散らばりが小さいようです。つまり、一般労働者の労働市場と比較して、パート市場の賃金は平準化していると言えそうです。
普通であれば、企業規模や年齢などが違っていても仕事が同じであれば賃金に差がない方が望ましいとされ、労働市場が流動的で、よく機能していればそうなると考えられるので、この結果から「パート市場はよく機能している」と推測してもいいのですが、両先生はそうではないと主張されます。
その理由は(2)の「パートの仕事の内容が多様であること」、それをより詳しく説明したのが(3)です。(1)を支える議論として出ている限り、これらは正規社員と比較してということになります。パートの仕事が多様化していても、正規社員の仕事がさらに多様であれば、正規社員の賃金に比べてパートの賃金が平準化していても不思議ではないからです。
次回は一般労働者とパートタイム労働者の仕事の多様性を検討します。
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本田先生は「引用部分で私が注目したかったのは、仕事内容を問わずパートというだけで低賃金に一括されているという指摘です。それでも労働供給があるのでそういうことが成立しているのですが、やはり問題だと思います。」と述べられています。
この引用は大橋勇雄・中村二朗『労働市場の経済学』の154,155ページからのものです。
ここでもう一度、引用しておきます。()の数字は私が追加したものです。
(1)「正規社員の労働市場と比較して、パート市場の賃金は驚くほど平準化している。」
(2)「このことからパート市場はよく機能しているように見えるが、パートの仕事の内容が多様であることを考慮すると、そうではない。」
(3)「今やあらゆる業種や職種でパートは活用されており、仕事の難しさや必要とする緊張度、仕事のつらさなど実に様々である。」
(4)「にもかかわらず、パートの仕事として大括りにされ、賃金が低く抑えられているのが実状である。」
(5)「その意味で、まずパートの賃金を仕事に応じて決めるシステムが必要である。」
これらを、検討してみたいと考えています。
データは平成16年賃金構造基本統計調査です。
(1)について、学歴計、企業規模計、全産業で見ます。
女性の一般労働者の所定内給与の分布はこのようになっています。
http://wwwdbtk.mhlw.go.jp/toukei/kouhyo/data-rou4/data16/10301.xls
女性のパートタイム労働者の1時間あたり所定内給与の分布はこちらです。
http://wwwdbtk.mhlw.go.jp/toukei/kouhyo/data-rou4/data16/31501.xls
項目 | 一般労働者 | パートタイム労働者 |
---|---|---|
第1四分位 | 168.6千円 | 757円 |
中位数 | 206.6千円 | 842円 |
第3四分位 | 258.5千円 | 967円 |
四分位分散係数 | 0.22 | 0.13 |
四分位分散係数=(第3四分位-第1四分位)÷(中位数×2)
です。これは散らばり方を示す指標で、大きいほど散らばりが大きいことを示します。
所定内労働時間の差を無視した一般労働者の所定内賃金と、パートタイム労働者の1時間あたり所定内給与の比較であり、不正確ですが、パートタイム労働者の賃金の散らばりが小さいようです。つまり、一般労働者の労働市場と比較して、パート市場の賃金は平準化していると言えそうです。
普通であれば、企業規模や年齢などが違っていても仕事が同じであれば賃金に差がない方が望ましいとされ、労働市場が流動的で、よく機能していればそうなると考えられるので、この結果から「パート市場はよく機能している」と推測してもいいのですが、両先生はそうではないと主張されます。
その理由は(2)の「パートの仕事の内容が多様であること」、それをより詳しく説明したのが(3)です。(1)を支える議論として出ている限り、これらは正規社員と比較してということになります。パートの仕事が多様化していても、正規社員の仕事がさらに多様であれば、正規社員の賃金に比べてパートの賃金が平準化していても不思議ではないからです。
次回は一般労働者とパートタイム労働者の仕事の多様性を検討します。
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この記事へのコメント
なのに企業側はパートさん、派遣さん、アルバイトさんについて「コイツがダメでも次があるから平気さ」と考えている。若い子をこんなふうに使っていたら、社会全体がいつかしっぺ返しを受けるぞ!!と言いたい。3カ月おきに面接されるとか3年間派遣として使われても正社員交渉目前となると切るとか、暗澹たる世の中です。
基本的には、労働市場での供給過剰=需要不足が若い方々を直撃しているのだと思います。このような状態が何年も続いていますので、企業の経営者、人事・労務担当者の皆さん、特に経験の浅い方は、労働市場での供給過剰=需要不足が当たり前、いつまでも続くという感覚になってしまっているのだと思います。
今の景気拡大が後2,3年続くと少し感じが変わると思い、そうなることを祈っています。はらはらしながら見ているという感じです。そのせいで最近経済のエントリが増えています。
学卒の就職はだいぶ楽になりましたし、派遣料金も少し上がり始めています(本人にどれだけ届くかは分かりませんが。)。パート労働市場の春はなかなかでしょう。30に近い方、越した方は未だ厳しいのが続くと思います。
こうして、労働者が経験を蓄積できず、将来の経済の天井がだんだん低くなってきています。
エントリーで女性労働者について注目しているのはなにか理由(例えば『労働市場の経済学』で扱われているのが女性労働者だけとか)があるのでしょうか?本田先生についてはむしろ男性非正規雇用者に注目しているような印象を受けます。
直感的には、女性労働者の場合専業主婦は配偶者控除(実際にはもう少し複雑ですが)が給与総額の天井になるので、高い時給を求めなくなる気がするのですが。
それから、所定内賃金=労働時間×時給ですから時給と時間が独立変数であれば所定内賃金の散らばり>時給の散らばりになるはずです。労働時間の散らばりについての考察なしに散らばりが小さいという結論は出せないと思います。
あと、統計データに直接リンクを貼るときは統計の目次のページにもリンクを貼っていただけると助かります。調査の説明を探すのが結構面倒なものでして。
なお、「労働市場の経済学」が問題視しているのは市場における情報不足で、仕事の内容についての情報が十分に提供されればおのずと仕事に応じた賃金が決まっていくのではないか、というのが著者のアイデアではないかという印象を私は受けました。「格付け」という用語が誤解を与えるわけですが、バリバリの理論経済学者が職種別の公定価格を決めるなんてことを考えているわけがないと思うので。
お答えを2月4日のエントリーに書きましたので、お読み下さい。