3号被保険者制度は不公平か?

実際に支払われている老齢年金はどれぐらいの額なのか?」で、実態の話をしましたが、今回は制度論です。制度の中で最も話題になりやすいのが、第3号被保険者制度でしょう。

厚生年金の第3号被保険者制度は、専業主婦が保険料を払わなくても年金を受け取れる制度です。専業主婦優遇と、共稼ぎ夫婦、特に働いている妻からは「不公平だ」と非常に評判の悪い制度です。本当に不公平なのでしょうか?なんで、こんな制度があるのでしょうか?前から気になっていたのですが、今回、少し、考えてみました。結果報告です。

最初に、サラリーマンなどの加入している厚生年金のシステムがどんな原則、思想で作られているかを考えてみました。かなり複雑な仕組みなので、少し簡略化しています。

第1の原則 所得に応じて費用を負担する。
まぁ、妥当な考え方だと思います。給与所得の低い人は低い割合にしてあげるという考え方もあるでしょうが、負担のほうは一定にしてあります。
この原則を満たすのは簡単です。Zを保険料、所得をYとすると、保険料を次の式に従って決めればいいだけです。保険料は所得に正比例します。
Z=α×Y (1)
ここでアルファを0.2、つまり所得の20%とすると、こんな具合になります。

働いているときの所得と保険料
所得保険料
25
5010
10020
20040


(実際、厚生年金保険料は、給与所得の多寡にかかわらず、給与所得の一定割合になっています。原則としてはですが。)

第2の原則 個人レベルでの負担に応じた給付と老後の所得格差の是正
○負担が同じなら給付も同じ。負担が少なかった人は、年金も少なく、多く負担した人には多めの年金を払う。これには異論がないでしょう。
●働いていたときの所得格差より、老後の年金の格差を小さくする。
大方の賛成は得られるのではないかと思いますが、異論はあり得るでしょう。

保険料と年金の関係を次のようにすれば、第2の原則の○と●、第3の原則を同時に満たせます。ほかにもいろいろありえますが、簡単なのはこれです。

これも難しくありません。年金をXとして、次の式で年金額を決めればいいのです。一次関数になります。ただしaは正の数です。
X=a+bZ (2)
ここでa を10、b を2とすると、保険料と年金の関係はこのようになります。ついでに給与所得との関係も書いておきます。働いていて所得ゼロは変なのですが、とりあえず。
働いているときの所得と保険料
所得保険料年金年金÷所得
ゼロゼロ10
252080%
50103060%
100205050%
200409045%



ご覧になればわかるように、働いていた時の所得が同じであれば、必ず年金も同じです。そして所得が低いと年金は少なく、高いと多くなります。でも、所得が半分になっても年金は半分までは減りません。2倍になっても倍にはなりません。
所得に正比例して保険料を取り、年金を保険料の一次関数にすると、こういう結果になります。所得の少なかった人(=保険料の少なかった人)に厚めの年金を払うことになって、所得の再分配効果が働くのです。
もし、保険料の一定割合を年金にすると(年金を保険料に正比例させると)この効果は働きません。
第2の原則の●はこういう効果を持っているのです。みなさん、この仕組みに賛成ですか、反対ですか?これは年金制度、年金制度の改革を考えるとき、非常に重要な論点です。第3号被保険者の問題は、ここから起こっているのです。あとで説明します

さて、次に進みます。
第3の原則 二人合わせた所得が同じであった夫婦(第1の条件から二人合わせた支払った保険料が同じ夫婦です。)の年金額は、どの夫婦をとっても同じ。
夫婦はたがいに扶養の義務を負っているのですから、当然でしょう。ほとんどの方の賛成を得られるのではないかと思います。一見すると、これといった問題はなく、簡単に実現できそうに見えます。ところが、妻が働いていないときに、第1の原則、第2の原則を満たしたうえで、この原則も満たそうとすると、工夫が必要になります。

簡単な例で示しましょう。

よくモデル世帯と呼ばれる夫だけが働いた夫婦で、夫の所得は200、妻の所得はゼロとします。夫婦を合わせた所得は200です。
この夫婦の場合、ら夫の保険料は200×0.2で、40。年金は10+2×40(保険料です)で90です。(上の表をご覧になって、確認して下さい。)、妻はは働いていないので、保険に加入していません。当然、保険料はゼロですけれども年金はゼロです。あわせると夫婦の年金は90+0=90です。
次に、夫婦の所得の合計がやはり200になる共稼ぎの夫婦を考えてみます。ともに働いていますからどちらも年金に加入しています。二人とも所得は100だったとします。夫の保険料は100×0.2で20ちょうどです。夫の年金は10+2×20=50です。(これも上の表で確認してください。)妻も全く同じです。すると夫婦の年金は50+50=100です。

第3号被保険者制度がない場合の夫婦の比較
夫婦のタイプ夫、妻所得保険料年金年金÷所得
専業主婦の夫婦夫(2号)2004090
専業主婦の夫婦妻(無年金)
専業主婦の夫婦夫婦合計200409045%
共稼ぎの夫婦夫(2号)1002050
共稼ぎの夫婦妻(2号)1002050
共稼ぎの夫婦夫婦合計2004010050%



二組の夫婦を比べると、専業主婦世帯も共稼ぎ世帯も夫婦を合わせた所得は200、保険料は40で全く同じです。つまり年金制度への貢献度は同じです。ところが、年金は専業主婦世帯が90、共稼ぎ世帯が100です。
第3の原則は満たされません。

第3の条件を満たすためには、工夫が必要です。どうすればいいか。単純で、雇われて働いていない専業主婦も年金に加入していた、でも所得はゼロだったとすればいいのです。こうすると、このような夫婦の妻は保険料を支払わなくてもよく、そして保険料がゼロだった時の年金額10だけの年金を受け取ることができます。この仕組みのもとで専業主婦世帯の年金を計算してみると、夫9050、妻10、合計10060です。これは所得が同じだった共稼ぎ夫婦の年金額と同じです。実は、これが第3号被保険者の仕組みです。

第3号被保険者制度がある場合の夫婦の比較
夫婦のタイプ夫、妻所得保険料年金年金÷所得
専業主婦の夫婦夫(2号)2004090
専業主婦の夫婦妻(3号)10
専業主婦の夫婦夫婦合計2004010050%
共稼ぎの夫婦夫(2号)1002050
共稼ぎの夫婦妻(2号)1002050
共稼ぎの夫婦夫婦合計2004010050%


さて、ここで注意が必要です。第3号被保険者の仕組みが必要になるのは、第3の原則を満たすためではないのです。変に聞こえるかもしれませんが、本当の原因は第2の原則の●にあります。老後の所得格差を是正しようとするから、第3号被保険者制度が必要になるのです。

証明してみましょう。格差を是正しなくてよいなら、年金額は保険料に正比例させればよいのです。保険料は所得に正比例していますから、所得に年金が正比例することになります。年金は定額部分をなくして、単純に保険料×2とします。

先程の例を使って計算してみます。夫だけが働いた夫婦で、夫の所得は200、妻の所得はゼロとします。夫婦を合わせた所得は200です。これは変わりません。
この夫婦の場合、夫の保険料は200×0.2で、40でこれも変わりません。年金は変わります。定額部分10がなくなるので、2×40(保険料です)で80です。妻は働いていないので、保険に加入していません。当然、保険料はゼロですけれども年金はゼロです。これも変わりません。夫の年金は80、妻の年金額はゼロです。あわせると夫婦の年金は80+0=80です。10だけ減っています。
次に、夫婦の所得がやはり200になる共稼ぎの夫婦の計算をします。ともに働いていますからどちらも年金に加入しています。二人とも所得は100だったとします。夫の保険料は100×0.2で20ちょうどです。夫の年金は2×20=40です。10減ります。妻も全く同じです。すると夫婦の年金は400+40=80です。二人とも10ずつ減っていますので、夫婦合わせると20減っています。
第3号被保険者制度がない場合の夫婦の比較
夫婦のタイプ夫、妻所得保険料年金年金÷所得
専業主婦の夫婦夫(2号)2004080
専業主婦の夫婦妻(無年金)
専業主婦の夫婦夫婦合計200408040%
共稼ぎの夫婦夫(2号)1002040
共稼ぎの夫婦妻(2号)1002040
共稼ぎの夫婦夫婦合計200408040%


二組の夫婦を比べると、専業主婦世帯も共稼ぎ世帯も夫婦を合わせた所得は200、保険料は40で全く同じです。そして、ここが大事なところですが、年金は専業主婦世帯が80、共稼ぎ世帯も80で、差がありません。第3の原則は満たされています。第2の原則の●がなければ、第3号被保険者制度がなくても第3の原則が満たされるのです。つまり、第3号被保険者制度が必要になるのは、第2の原則の●のせいなのです。

要するに、働いているときの所得の格差を老後の年金格差に持ち込まないようにするためには、第3号被保険者制度が必要なのです。これは、不公平な制度でしょうか。

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